ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所見学
23日に地元Bar主催の蒸溜所見学に参加してまいりました。
場所はコチラ
日本では最も新しい蒸溜所です。
当blogでも何度か話題にしている「イチローズ・モルト」の製造販売をしている会社です。
この蒸溜所を語るにはこの会社が創業に至った経緯を言わないと。
創業者である肥土伊知郎(あくといちろう)さんは東亜酒造の創業者の孫で元社長。
かつて東亜酒造は秩父から程近い埼玉県は羽生で本格的なウイスキーを製造していました。
しかし会社が経営危機に陥り、キング醸造傘下に入ることが決まり、その際キング醸造からウイスキー事業からは撤退し、熟成中のウイスキー原酒は全て廃棄するとの通告が。
「わが子の様な原酒を捨てるわけにはいかない」
と肥土さんは福島県郡山市にある笹の川酒造に援助を受け、原酒を引き取ることに。
窮地を脱した原酒は豊かな個性を持つ「イチローズ・モルト」として世に出て数多くの賞を獲得しました。
そして、2007年に東亜酒造創業の地である秩父に蒸溜所を作りました。
横浜から長瀞にて紅葉見物を経て、午後に現地到着。
社長の肥土さん自身が出迎えてくれました。
工場を社長ご自身がご案内。現在の秩父蒸溜所の全工程を細かく説明してくれました。
現在麦芽の製造はスコットランドで行っており、現地でフロアモルティングを行っているものを使用。ピート(泥炭)を使って乾燥させたもの、ピートを使ってないもの、どちらも作ります。
両方を試食させてもらいましたが、ピートを使って乾燥させた麦芽はスゴイスモーキー。
それをミル(麦芽粉砕装置) にかけ、それを目の大きさが異なるふるいにかけて3つにわける。
7:2:1と言う黄金比ががあるそうだ。

それを各々マッシュタン(糖化槽) に60度以上のお湯と一緒に入れて麦汁を作る。
これも温水の量、温度を変えて、3段階を踏むことにより効率よく麦から糖分をとることが出来ます。
(ちなみに具体的な量、温度も教えてくれました)
次に3100リットル入るウォッシュバック(発酵槽)に2000リットルの麦汁を入れて、10キロの酵母を加えます。
これで4日間かけて乳酸菌が糖分をアルコールに変えます。どんどん泡を吹くので、ファンみたいな攪拌棒で泡を切り、泡が溢れないようにします。
秩父蒸溜所ではウォッシュバックにミズナラを使ってます。これは世界でもここだけ。
樽には適さないミズナラも小型のウォッシュバックなら使用可能だとか。
前例がないから「やってみないとわからない」ことだらけ。
発酵が終えたウォッシュ(もろみ)はアルコール濃度7%程度。エールビール並です。
次は蒸溜(スチル)
蒸溜釜はスコットランドのForsyth's社製の物を使用。蒸溜釜のトップメーカーだそうです。
必ず銅製。これは銅イオンが不要物を除去してくれるから。
ヘビーで個性的なウイスキーを作る為に小さく、ストレートヘッドのものを使用。
初溜釜、再溜釜1つずつの計2台を設置してます。
初溜(ウォッシュスチル)は2000リットルのウォッシュが7~800リットルになり、アルコール濃度は20%前後に。
再溜は(スピリットスチル)は7~800リットルが220~230リットルになり、アルコール濃度も70%程度に。
各々6時間かけて蒸溜します。
釜の加熱は右隣にあるボイラーからの蒸気を中に送り込んで行います。
蒸溜した液はスピリットセイフに流れ込む。
ここで最初にでてきた液(ヘッド)、真ん中(ハート)、最後の液(テール)、に分ける(ミドルカット)。
ハート以外はそのままでは使えず、再度蒸溜釜に戻します。
私はてっきりハート以外は捨てるもんだと思ってました。
「実はこれが重要なんです」とメンテナンス直前の最後のヘッドやテールもちゃんと残しておいて、次回の蒸溜時に使うそうです。
ちなみにウォッシュスチルとスピリットスチルの見分け方は窓がついているのがウォッシュスチル、窓がついてないのがスピリットスチルだそうです(例外もあり)。
蒸溜は毎年10月から7月の間に行われます。真夏は水温が高すぎて適さないんだとか。
ピートが効いてないモルトを先に蒸溜し、ピートが効いているモルトはメンテナンスの直前に蒸溜します。
これはピートの香りがノンピートにもくっ付いてしまうから。
熟成庫は土の上に木を組んで2~3段に積む伝統的なスタイル。
山崎、余市と同じスタイルですね。
これの方が地域特性が出やすいそうです。
樽が小さく、上に積んだほうが熟成は早く進みます。
そのため、秩父蒸溜所ではバーボンバレルの左右をカットして小さい樽”チビ樽”を作り、早熟のウイスキーも造っているそうです。
樽も多種多様にシェリー樽、ホッグスヘッド、バーボンバレル、ミズナラ等。
ミズナラは漏れやすく、樽には適さないと良く聞きます。
「どう漏れるの?」と疑問に思っていたら、実際に漏れてる樽を紹介してもらいました。
この通りです。
製樽は今現在、職人さんにお願いしているものの、80歳を超えており、跡継ぎもいない為、秩父蒸溜所のスタッフさんが定期的に通って製樽技術のトレーニングを受けているそうです。
肥土さん曰く、「簡単に習得できるものではないが、やらなきゃ始まらないですから」
ニッカやサントリーの蒸溜所のガイドと異なり、肥土さんの説明は基本的な製造過程の内容からさらに一歩踏み込んだガイド。
「そう言うことだったのか!」の連続でした。
例えば、大量出荷するウイスキーの製造は特徴がぶれ難いベースモルトを大量に生産し、それに少量生産した個性が出やすいドレッシングモルトをブレンドして、深みを与えているそうです。こんなのどこでも教えてくれなかったし、どこのウェブサイトにも出てなかったぞ!。
最後に肥土さんのお話を聞きながらの試飲タイム。
出来立てのニューポットから33年ものビンテージまで全て無料で試飲させて貰いました。
いろいろ飲んだから一部を紹介。
'10.7.18 Newpot Heavily peaterd Oxbridge 63.5%
出来てから間もないニューポット(非売品)。
その名の通り、かなりのヘビーピーティー。
でもフレーバーはそれほどきつくなく甘みもある。
正直これなら飲めるな。
Ichiro's Malt 23 Years Old Cask Strength 58%
羽生蒸溜所時代のシングルモルト。
コレ、かなりウマイ。
ドライフルーツ系の甘く熟したフレーバー。穀物臭が少ないまさにビンテージモルトの真骨頂!。
お値段52500円!でも値段以上の味です!。
一番感動的だったのは肥土伊知郎さんの人物そのもの。
どんな質問にも気さくに答えていただきました。
私が質問したのは「同じく操業したてのKILCHOMANの存在は気になりますか?」
なんと創業者のアンソニーさんとはお知り合いだそうで、やはり気になる存在。
秩父蒸溜所の熟成3ヶ月のスピリッツを飲んであまりの熟成に速さに「3 month !?」と大変驚いたとか?。
今後の目標は”秩父らしいウイスキー”作り。
それが一体どんなものか?はまだわからない。
秩父の水、秩父の農家でとれた大麦、秩父でとれたピートでつくる”100%秩父”なウイスキー。
素晴らしいウイスキーを作りウイスキーで”CHICHIBU"の名を世界に広めたい。
3年後には最初の”100%秩父産ウイスキー”を出荷予定。
最終的な目標は100%秩父産で30年もののプレミアムシングルモルトを売ること。
30年ものを作るということはどんなに早くても出荷できるのは2038年。夢は果てしなく壮大です。
「美味しいウイスキーつくりのためならなんでもやる」飽くなき探究心。肥土さんの話に参加者全員が魅了されました。
総従業員数がまだ10人も満たない小さい小さい蒸溜所。
だけど、夢はデカイです!。
実はこのツアーに行く寸前にキリン(旧メルシャン )軽井沢蒸溜所が現在操業を休止していることを知ったんです。
メルシャンがキリンに吸収され、御殿場蒸溜所と軽井沢蒸溜所のバッティングモルトを楽しみにしていたんですが、最悪の結果にガックリ。
しかし、このツアーの後、秩父蒸溜所のことを調べてみると、軽井沢蒸溜所で48年間ウイスキー作りをされていた内堀修省さんが軽井沢蒸溜所を退職し、今現在、秩父蒸溜所にてチーフ・ディスティラーとして従事されていることを知ったんです。
48年のノウハウが詰まった素晴らしいウイスキーが出来ることを期待します。
私たちがバスで蒸溜所を後にするときは肥土さん自身が両手を振って送り出してくれました。
実に有意義な大満足の蒸溜所訪問でした。
ちなみにベンチャーウイスキー秩父蒸溜所は社員が少ない上、見学施設は一切ないので、基本的に見学は受け付けてません。
しかし、ウイスキー愛好会やBar主催での見学はスケジュール調整の上、受付可能とのことです。
ウイスキー大好きな方は機会があったら最低限のウイスキー知識を持参の上、訪問を!。
本当にオススメです!。
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